マイコプラズマ感染症

ポイント

  • マイコプラズマは子どもにかぜ症状や気管支炎、肺炎を引き起こす細菌の一種です。
  • 好発年齢は幼児から学童期で、飛沫感染や接触感染で感染します。潜伏期間は2-3週間です。
  • 初期症状はかぜ症状で、基本的には発症してから5~7日ほどで自然治癒します。しかし感染した3-5%の人が肺炎となります。
  • 血液からマイコプラズマに対する抗体を検出する方法、咽頭ぬぐい液からマイコプラズマを検出する方法で確定診断を行います。時間がかかったり、検査として欠点があったりするため、症状の経過や診察で臨床的にマイコプラズマと診断する場合も少なくありません。
  • 多くは自然経過で治癒するものの、肺炎や気管支炎を起こし治療が必要な場合は抗生物質を投与します。園や学校は、急性期は出席停止となります。

マイコプラズマとは?

マイコプラズマ(マイコプラズマ ニューモニエ/Mycoplasma pneumoniae)はかぜ症状や気管支炎、肺炎を引き起こす細菌の一種です。
細菌の1種ですが他の肺炎を起こす細菌と大きく異なる点があり、医療現場では区別される事が多いです。それは構造上の違いで、一般の細菌は「細胞膜」と「細胞壁」という二重の体を包む構造がありますが、マイコプラズマは「細胞壁」を持たず「細胞膜」が発達して自分の体を守っています。

構造上の違いから、効果のある抗生物質が特別なものである、ワクチンが開発しにくいとなどといった特徴がある細菌です。

マイコプラズマは市中肺炎の原因の5%から30%弱を占めると言われています。近年コロナによる制限が解除され、往来が活発化した結果ヨーロッパやアジアでは増加傾向を辿っています。また以前からオリンピックイヤーに流行するとも言われていました。様々な要因から2024年現在、日本でも近年にない流行を見せています。

マイコプラズマはどうやって感染する?症状は?

マイコプラズマは飛沫感染と接触感染で感染します。好発年齢は幼児から学童期で5-12歳に特に多く見られます。

感染力としては友人間ぐらいの距離での濃厚接触が必要と考えられています。閉鎖空間での集団感染を引き起こす場合もあります。潜伏期間は2-3週間と比較的長く、感染の契機がはっきりしない事が多いです。

感染した際の初期症状として発熱、咽頭痛、頭痛、倦怠感、嘔吐、腹痛、下痢といったかぜ症状を引き起こします。 典型的な経過では、初発症状の出現後3-5日で咳嗽の増強を認めます。
咳嗽は当初は乾いた咳ですが、次第に湿った咳となっていきます。
熱の出方は、朝は解熱しているぐらいの体温なのに夜になると熱が上がってくるのを繰り返す出方が典型的です。

基本的には自然治癒する疾患で、発症してから5~7日ほどで症状が治まります。

しかし経過中40%程度に喘息の様な喘鳴(ぜこぜこ)を伴う気管支炎を、3-5%程度に肺炎を引き起こす場合があります。強い症状はマイコプラズマ自体の直接的な影響だけでなく、感染した人自身の免疫反応が作用して引き起こされると言われています。

マイコプラズマの診断は?

発熱や咳嗽の経過や性状、周辺の感染状況からマイコプラズマ感染を疑う事が多いです。気管支炎や肺炎の有無は肺の聴診所見やレントゲンの所見で判断します。一般的な採血検査では白血球の軽度上昇や炎症反応軽度高値を示す事がありますが、マイコプラズマに特異的な結果はありません。

マイコプラズマであると確定診断するには以下の方法があります。

  • ・血液のマイコプラズマに対する抗体を調べる方法
  • ・咽頭のぬぐい液からマイコプラズマの病原体自体を調べる方法

血液からマイコプラズマに対する抗体を調べる方法は、マイコプラズマの感染に対する免疫反応を調べる検査のため、感染後しばらく経ってからの検査となります。

また、一般的にクリニック内でできる検査ではなく(外注検査)、提出してから結果が返ってくるまでの時間が必要です。このためリアルタイムに「マイコプラズマ感染を確認して治療を開始する」ための検査ではなく「後からマイコプラズマ感染だった事を確認する」検査となります。

咽頭ぬぐい液からマイコプラズマの病原体自体を調べる方法は大きく2つに分けられます。

①マイコプラズマ抗原の迅速検査
②マイコプラズマのDNAを増幅して検出する方法。

マイコプラズマ抗原(病原体)の迅速検査はインフルエンザや新型コロナウイルスの迅速検査同様に病原体を検出するキットを用います。数十分以内に結果が判明する反面、感度が60-80%程度と低いのが難点です(本当に病気の人10人が検査を受けたら2-4人が陰性になってしまいます)。

マイコプラズマDNAを増幅して検出する方法はLANP法、PCR法など何種類かあります。感度は100%ですが、結果判明までに数時間から数日時間を要します。またコスト面などからどの施設でも標準的に行える検査ではありません。

この様にどの検査も利点と欠点があり、また多くのマイコプラズマ感染症の経過は初期にかぜ症候群と同様の症状を示すことから早期の確定診断は難しいのが現状です。

そのため、症状と経過の問診、診察などの所見から臨床的にマイコプラズマが疑わしいかを判断していく事が重要です。子どもの症状や経過でマイコプラズマ感染が心配な際は、医師にご相談ください。

マイコプラズマ感染症の治療法と出席停止期間は?

治療薬は抗生物質ですが、マイコプラズマ感染症は基本的に自然治癒する疾患で必ず抗生物質による治療が必要ではありません。

気管支炎や肺炎を発症した場合や発熱が遷延した場合を中心に、子どもの年齢・元々の病気の有無・全身の状態などを加味しながら抗生物質による治療が必要か判断していきます。

マイコプラズマに対し、一般的な肺炎の原因となる菌に対する抗生物質(ペニシリン系やセフェム系)は効果が得られません。

第一選択はマクロライド系の抗生物質で、種類によって3日間、あるいは7-14日間の投与が必要です。

抗生物質の乱用や不適切な使用の影響もあり、近年マクロライド系抗生物質耐性のマイコプラズマが増えてきています。

効果が乏しい場合はテトラサイクリン系抗生物質が第二選択として使用されます。

テトラサイクリン系抗生物質は永久歯に生え変わる前の子どもに使用すると永久歯が黄色く染まってしまうという副作用があります。

マイコプラズマ感染の治療に必要な7-14日間程度の、短期間に限った使用では起こりにくいことから海外では年齢に関わらず使用される場合もあります。

本邦では医薬品の添付文書で原則禁忌とされていることから、8歳未満では第二選択としてオゼックス(トスフロキサシン)というニューキノロン系抗生物質を使用する場合が殆どです。

近年さまざまな理由により薬剤の供給制限が起きており抗生物質も影響を受けています。耐性菌の流行の程度や子ども自身の状態、抗生物質供給の状況から第一選択以外の抗生物質が処方される場合もありますので、処方された薬に疑問や不安がありましたら医師にお尋ねください。

抗生物質でマイコプラズマ自体の治療が出来ても、肺炎や気管支炎といった炎症や咳嗽、喘鳴といった症状がすぐに回復するわけではありません。症状に応じた対症療法をあわせて行っていきます。また症状が強い場合、特に呼吸状態や水分摂取不良が強い場合は入院による治療が必要となる場合もあります。

園や学校の出席ですが、マイコプラズマ肺炎は学校保健安全法で「第三種学校伝染病」に指定されているため急性期は出席停止となります。

その一方でインフルエンザや新型コロナウイルス感染症の様に明確な隔離期間や出席停止期間が定められておりません。一般的には急性期が過ぎ全身の状態が良いこと、咳嗽や喘鳴といった症状に影響なく日常生活が送れることが登園・登校再開の目安となります。子どもが登園・登校可能か判断に迷う場合は医師にご相談ください。

まとめ

マイコプラズマは幼児から学童期の子どもに感染し、肺炎や気管支炎を起こす病原菌です。

マイコプラズマ感染症は検査の特性や、初期症状がかぜ症候群と同じため早期診断が難しい疾患です。基本的には自然治癒する疾患です。しかし肺炎や気管支炎を起こしている場合や長引く発熱を認める場合は、問診や診察・検査を組み合わせて診断し抗生物質を中心とした治療を行います。「マイコプラズマかも?」という気になる症状や経過が子どもにある場合は医師にご相談ください。