ポイント
- ・尿路感染症は尿の通り道に細菌が入ることで感染をおこす病気です。膀胱より手前の上部尿路感染症(腎盂腎炎)と、膀胱から尿が排出される尿道口までの下部尿路感染症に分類されます。
- ・膀胱炎は下部尿路感染症です。尿道や外生殖器に便や肛門周囲の腸内細菌が付着する、汚い手で触るといったことが細菌の侵入する契機になります。排尿を我慢することで菌が繁殖し感染を起こしやすくなります。
- ・上部尿路感染症は膀胱尿管逆流症や先天性腎尿路異常が原因となることが多いです。乳児期、特に3-4ヶ月未満の感冒症状のない発熱は初回の尿路感染症の発見の契機となる場合があり注意が必要です。
- ・尿路感染症の診断には尿検査が重要です。乳幼児期の場合は「尿が濁っている」「オムツがいつもと違う匂いがする」というご両親の気づきも診断のきっかけになることがあります。
- ・治療は抗菌薬の投与を行います。膀胱尿管逆流症による上部尿路感染症では予防的な抗菌薬投与や手術などを専門医と相談しながら行う場合があります。
- ・膀胱炎の予防は水分をしっかり摂って尿をしっかり出す事が基本です。
尿路感染症ってどんな病気?
尿は腎臓でつくられます。血液から濾過された尿は腎臓の中で調整され、腎臓の中心部にある腎盂に集まり尿管を流れて膀胱にたまります。
膀胱にたまった尿は尿道を通って体外に排泄されます。
尿の流れる道筋を尿路と呼びますが、その尿路に感染を起こすのが尿路感染症です。
小児で主に問題になるのは細菌による細菌性尿路感染症です。
また尿路は下部尿路(尿道と膀胱)と上部尿路(尿道と腎盂、腎臓)に分けられますが尿路感染も下部尿路感染症(膀胱炎)と上部尿路感染症(腎盂腎炎)に分類されます。
尿路感染症の原因は?
尿路感染症は尿道から細菌が侵入することで起こります。
便が排出される肛門周囲の皮膚には大腸菌をはじめとした腸内細菌が付着しています。肛門側からお尻を拭く、清潔でない手で尿道・外生殖器を触るなどが細菌の侵入の契機になります。
尿道から侵入した細菌は必ずしも感染を起こす訳ではなく、排尿時に流されてしまい感染が成立しないこともありますが「おしっこを我慢する」事で菌が停滞、繁殖し感染を起こしやすくなります。
上部尿路感染症は乳児期に多いと言われ、膀胱の上部に細菌がたどり着いて感染を起こします。
先天性腎尿路異常という尿路の、生まれつきの異常により膀胱から尿が逆流しやすい状況(膀胱尿管逆流症)が生じ感染を引き起こす事が乳児期に多い原因とされています。上部尿路感染症を契機に膀胱尿管逆流症が発見されることも少なくありません。
尿路感染症の症状と診断は?
下部尿路感染症の場合、排尿時痛や頻尿、尿意逼迫感、残尿感を感じたり訴えたりすることがあります。
下部尿路に感染が限局している場合は通常、発熱を伴いません。
一方、上部尿路感染症は下部尿路感染症の症状の他、発熱を伴い腹部の痛みや圧痛、腰背部の疼痛や叩打痛(叩くと響くように痛む)を訴えます。
しかし年少児や乳児ではこれらの症状を訴えることが難しく発熱や不機嫌、食欲低下といった他の感染症と同様の症状しかみられないことが多々あります。
特に膀胱尿管逆流症や先天性腎尿路異常による初回の上部尿路感染症は、3-4ヶ月未満の風邪症状のない発熱、不機嫌、哺乳不良といった症状を訴えて受診される場合が多いです。
発熱に伴った尿の混濁や匂いの違いを両親が気づいて受診となる場合もあります。
尿路感染症の可能性があるかどうかを判断するために大事な検査が尿検査です。
尿試験紙法や尿沈渣法で尿中白血球を認めます。大腸菌などの細菌が生み出す亜硝酸塩を尿中に認めることもあります。
尿検査の結果や診察所見から尿路感染症の暫定診断を行います。超音波検査や血液検査、CTを診断の参考にすることもあります。
尿から原因菌を培養し検出する事で尿路感染症と確定します。
尿路感染症の治療は?
細菌性尿路感染症の治療は抗菌薬投与です。
膀胱炎(下部尿路感染症)の場合抗菌薬を5日程度内服します。
尿を我慢しない、できるだけ水分をしっかりとって尿を増やし、我慢せずに排尿するといったことも気をつけていただきます。
上部尿路感染症は体の奥深くで感染を起こしていること、治療が遅れると全身の細菌感染に波及(敗血症)する場合や、腎機能に影響が生じる可能性があることなどから抗菌薬を点滴でしっかり投与する必要があります。
排尿と水分摂取もしっかり行う必要があり、基本的には入院で治療を行います。
また上部尿路感染を繰り返す、超音波やCTなどの画像検査で異常が見つかるなどの場合は膀胱尿管逆流症や先天性腎尿路異常を認めることがあるため、感染が落ち着いた後に逆流の有無を確認する検査などを行う場合があります。
尿路感染症の予防は?
膀胱炎の場合は水分をしっかり取ることと尿意を我慢しないことが大事です。
上部尿路感染症を繰り返す、あるいは強い逆流や尿路の構造的な異常を認める場合は、小児腎臓専門医や小児外科医、小児泌尿器科医のもと抗菌薬の予防的な内服や手術を行う場合があります。
子どもの状況に応じて担当の先生とよくご相談ください。
またクランベリージュースが尿路感染を予防するというお話を耳にしたことがあるかもしれません。
最近報告された解析(メタ解析)では摂取により約30%尿路感染が低下するという報告があります。しかしクランベリージュースは糖分が多く、一般的に乳幼児にお勧めできるものではありません。尿路感染症の予防の基本は水分摂取と膀胱尿管逆流症などの原因に対する対応ですので担当の先生とよくご相談ください。
まとめ
尿路感染症は小児科では比較的見る機会のある病気です。
膀胱炎は外来で見かけることが多い病気です。また、上部尿路感染症も発熱をきっかけに外来を受診して発見されることがあります。
よくおしっこを我慢している、排尿を嫌がる、おむつに付着している尿の様子がおかしいといった両親の「気づき」が子どもの診断における契機となることがあります。
気になることやお悩みのことがありましたら、医師にご相談ください。