RSウイルス感染症

ポイント

  • RSウイルスは飛沫感染や接触感染で鼻水を中心としたかぜ症状を起こすウイルスです。基礎疾患のある乳児や新生児は細気管支炎や肺炎などの重症化のリスクが高く注意が必要です。冬季の流行が主ですが、近年は夏にも全国的な流行のピークを認めています。
  • RSウイルス感染症に対する抗ウイルス薬はなく、鼻水の吸引や水分補給といった対症療法、支持療法が中心です。重症例では入院が必要となり、検査は主に重症化リスクの高い乳児を対象に行います。
  • 手洗いやうがい、消毒が基本的な予防策です。重症化リスクの高い基礎疾患のある子どもにはパリビズマブという抗体の注射が行われます。同じく重症化リスクが高い乳児期早期の感染を予防するために、妊婦が接種するワクチン「アブリスボ」が2024年に任意接種として開始しました。

RSウイルスってどんなウイルス?

RSウイルス(Respiratory Syncytial virus)はヒトからヒトに飛沫感染や接触感染で感染し、かぜ症状を引き起こすウイルスです。

一般的なウイルスで年齢を問わず感染しますが、1歳までに子どもの半数が2歳までにほとんどの子どもが初感染し、大人になっても再感染を繰り返します。特に乳児期早期や基礎疾患のある子どもが感染すると重症化する場合があるため注意が必要です。

以前は冬季に2〜5カ月間持続した流行を認めていましたが、年や地域によって流行の時期や程度は異なります。近年では夏にも全国的な流行のピークを認めています。

RSウイルス感染症の症状は?

RSウイルスに感染してから症状が出現するまでの期間は約4日間です。発熱、鼻水、喉の痛みといったかぜの症状が出ます。

鼻水が多いのが特徴的で、いわゆる鼻かぜのような熱を伴わない症状のみで終わる場合もあります。

しかし細気管支という肺の末端に近い気道や、肺に炎症を起こすと重症となりやすく注意が必要です。

注意すべき症状のサインとして、以下のようなものがあります。

  • ゼイゼイと音が聞こえるような呼吸(喘鳴)
  • 胸の肋骨と肋骨の間がぺこぺことへこむような呼吸
  • 息を吸う時に大きく小鼻が開くような呼吸
  • 顔色や唇の色が悪い
  • 哺乳量が低下している

3か月未満の乳児では、息を止めて唇が紫色(チアノーゼ)となる無呼吸発作を認める場合があり入院が必要となります。

早産児や低出生体重児、心臓などに生まれつき病気がある子どもはRSウイルス感染による呼吸状態悪化を引き起こしやすく注意が必要です。

RSウイルス感染症の治療は?

残念ながらRSウイルス自体に効果のある抗ウイルス薬はありません。

自分の免疫力で治る病気で、水分と栄養をとりながら鼻水をこまめに吸引し回復を待ちます。

水分や栄養摂取や休息が取れるよう、去痰薬や解熱剤で症状を和らげる手助けをする場合もあります。

細気管支炎、肺炎を起こし呼吸状態が悪化している場合は、入院して酸素投与や吸入、呼吸マスク・挿管による人工呼吸のサポートなどを症状に応じて行います。

またRSウイルスに感染した際、鼻水が多い影響で30-80%の頻度で急性中耳炎を起こすと言われています。

鼓膜の診察を行い、必要な時はあわせて急性中耳炎の治療を行います。まれですが1-2%に重症細菌感染を合併するとも言われており注意が必要です。

RSウイルスの検査は必要なの?

シーズンになると保育園などで「RSウイルスが流行っている」と言われ心配され受診されたり、あるいは園から「RSウイルスが流行っているから調べてもらうように」など言われて受診されたりする場合があります。

RSウイルスは鼻腔ぬぐい液から迅速診断が可能です。

しかしRSウイルス感染症が疑われるすべての子どもに行う検査ではありません。

治療で述べたとおりウイルスに対する抗ウイルス薬がなく、診断によって治療が変わらないことが検査を必ず行う必要がない理由の一つとして挙げられます。

もう一つの理由としてRSウイルス感染症になった場合、保育園などを何日休まないといけないという明確な出席停止期間や隔離期間がないことも挙げられます。

RSウイルスの感染者は発症4〜5日前から発症後10〜14日間、長いと1か月程度ウイルスを排出しており集団生活において隔離による感染予防が困難なウイルスです。

厚生労働省が定める『保育所における感染症対策ガイドライン』では、RSウイルス感染後に保育園への登園を再開する目安は「呼吸器症状が消失し、全身状態が良いこと」とされており、咳などの症状が落ち着いて普段どおり元気そうであれば、登園して大丈夫です。

話を検査に戻しますが、逆にどういった場合に検査が必要になるでしょうか。

保険適応として、外来では1歳未満の子どもがRSウイルス検査の適応となります。クリニックの外来では、生後1から3か月程度の乳児早期や基礎疾患のある乳児といった赤ちゃんにRSウイルス感染を疑う際、重症化する経過を予想し入院などの経過観察を必要とするか判断する材料の一つとして迅速検査を行うことが一般的です。

園と小児科クリニックは子どもの感染に対し本来協調して足並みを揃え対応していくことが望ましいですが、そうでないとき保護者が板挟みとなってしまう場合が多く見られます。 そのような際、お困りの際はぜひ医師にご相談ください。

RSウイルスの予防は?

感染経路が飛沫感染や接触感染であることから、手洗いとうがいが予防の第一歩です。感染者がいると予想される場合はドアノブなど手が触れる面の消毒も有効です。

重症化しやすい基礎疾患がある子どもには、パリビズマブというRSウイルスを攻撃する免疫物質である「抗体」からできている薬を注射します。

「抗体」を維持するためにはシーズンの間、月1回の注射が必要です。どのような基礎疾患のある子どもがパリビズマブ投与の適応となるかは医師にご相談ください。

もう一つ、重症化しやすい乳児期早期に感染を予防するためのワクチンとしてアブリスボというRSウイルスワクチンの接種が2024年5月開始しています(任意接種)。

アブリスボは従来多く採用されている乳児に対するワクチンではなく、妊娠24~36週の間に妊婦が接種することで、母体内で産生されたRSウイルスに対する抗体が胎盤を通じて胎児へ移行し、生後早期の新生児や乳児におけるRSウイルス感染症の予防が期待される画期的なワクチンです。

接種を希望される際は、妊婦健診を受けている医療機関にぜひご相談ください。